PGノベル「Vanstar」の原案概要をスケッチして簡単なセリフなどをつけたもの。全15話。
【1・空飛ぶ男と窓の女】
空飛ぶ男が窓の女に呼び止められた。
何してるんですか?
こういう機械のクズを集めてます。
なるほど。どこから来たんですか?
上から来ました。
後ろのアレに乗って来ました。
アレね。
アレは破片をばら撒いて、落ちて来ましたね。
あの破片を集めてるんですね。大事なんですね。
いえ、ゴミです。仕事中ですので、これで…。
男はアレに向かって帰っていった。
女はそれを見届けた。
【2・アレについて】
女はアレについて考察していた。
1、アレは空から落ちて来て、破片をばら撒いた。
2、アレは窓から見える丘に突き刺さった。
3、大きさがよくわからない。
4、霊能者が騒ぎ立てた。
アレ?おーい!
はい、何でしょう。
アレは宇宙船ですか?
はい、そうです。
5、宇宙船である。
はあ、はい。
何人くらい乗れるんですか?
500人から1000人です。
6、けっこうでかい。
そうですね。仕事中ですので、これで…。
アレについてのまとめ。500人から1000人乗りの宇宙船で、破片をばら撒きながら空から落ちて来て、丘に突き刺さった。霊能者が騒ぎ立てた。乗っていた人は破片を集めている。
【3・霊能者が騒ぎ立てた】
わたしは見た。
光の翼で飛ぶ天使の姿を。
そう言って霊能者は、信者になくて自分にある部分と、その話を結びつけて、信者よりも自分を大きく見せて、信者の自信を奪った。
その天使は、宇宙船から落ちた私の仲間のことです。
えっ。
体の近くから光の風を吹き出して、飛べる仕組みです。
へえ。体から出るんですか?
いえ、あの宇宙船から光の風を送るんです。その吹き出し口を、体の近くに開く技術です。
どういう原理かは置いといて、あの宇宙船がないと飛べないということですね。
そうです。察しが良いですね。
あなたも飛べるんですか?
はい。しかし、特別なとき、許可されたときだけです。
許可制なんですか。
わたしはさらに見た。
天使が手から物を出す奇跡を。
あとはそこへ信者の弱気をあおる理屈をつけて、目に見えない高額商品を売りつけて、おしまい。
その天使は万が一のために武装した、偵察部隊です。奇跡じゃありません。
武装?手から武器を出せるんですか?
光の風と同じ仕組みを使っています。手の先に、部品や材料を送ります。
それが手の先で組み立てられて、刃物や銃器になります。
ちょっと怖いね。もしかしてその部品を回収してるんですか?
いえ、これは機械のクズで、ゴミですよ。
ふーん。そっか。
ニュースで聞いたとおりですね。
しかし女はニュースに嘘が多いことを知っていた。
【4・窓から外出する女】
彼等は霊能者とは何の関係も無かった。
それがわかるころ、すでに霊能者は新しい題材で商売していた。
なまじ霊能力があるから、まことしやかなんですよね。
こんにちは。
あれ、そっちから来るなんて、何か用ですか?
じつはこの星、私達の神話に出てくる星なんです。
びっくり、それは驚きました。
神話と霊能者を同じにされたくなくて、それを伝えに来ました。
私達の社会とすら同じではないですよ。
神話の外へ逃げて、自信を失い、違う神話を探す人たち。
神話の外?
あなたも私も、みんな、いってみれば神様から命を授かり、神話を生かされてますでしょ。
何故その霊能者は、そこまでして人々の自信を奪うのでしょうか。
神話から逃げるとなにも生めなくなり、そうして人々の命を奪うしかなくなるからです。
本人もそう言ってたから間違いないですよ。
内輪話ですね。
それ、私も乗っていいですか?
はい、ご希望でしたら申請します。
聞いてみるもんですね。
女ははじめて窓から外出した。
【5・宇宙船に連れてって】
ほんとは宇宙船にも行きたいです。
ご希望でしたら申請しますよ。
いいの?さすがにダメかと思いました。
見学は歓迎なのですが、誰からも申請が無いんです。
宣伝不足かもしれませんね。
男は女を宇宙船に連れて行った。
船の中はプラネタリウムに改装されていた。
あれが私達の星の映像です。
とても美しいけど、なんだか儚いですね。
環境が激変して、住めなくなったんです。それでこの伝説の星に移住しに来ました。
女はしばらく無言で眺め続けた。
家まで送ります。
ありがとうございました。
こちらこそ。
【6・林の女】
窓の女は、仕事から帰宅して、一息ついていた。
おーい、こんにちは、呼び止めてごめんなさい。
いえ、私も仕事が終わったところです。
出勤途中の林であなたの仲間に出会いましたよ。
たぶん、その区域の担当者ですね。
挨拶したら、あなたのように、右手にゴミを持ったまま、左手で空を指差していましたよ。
でもそのあと無言だったから、別れの挨拶をして、通り過ぎました。
ふだん私たちはテレパシーで話しますから、無言だったのだと思います。
窓の女は無言になった。
ランチのスパゲティがよほど美味しかったんですね。
もしかして思ったことが通じたの?でも惜しい、スパゲッティーニでした。太さが違います。
この星のテレパシーは難しいです。
ランチがまだなので、これで…。
わざわざ遠回りして通るのは、気持ちが良いからですよ。
林のことですね。ランチのあとで歩いてみます。
女は男を見送った。林のこともテレパシーで伝わったかどうかは、満腹の眠気で、どうでもよく思えた。
【7 ・0.5言語】
窓の女は、林で会った女性を思い出していた。
彼女は、あの男みたいに、お話できないのだろうか。
呼びましたか?
林の彼女、あなたみたいに話せないんですか?
おそらく話せません、0.5言語から抜け出せない者だと思います。
0.5言語?
0.5言語は、この星に来て、テレパシーではない言葉に触れたことで、私たちに起きた問題です。
どんな問題なんですか?
例をお見せします。
赤。
赤、色の赤?
テレパシーでは靴下を伝えました。組み合わせると、赤い靴下です。
組み合わせると赤い靴下か。言葉は赤、テレパシーは靴下。どっちも中途半端でわからなかったです。
そうです、だから0.5。言葉もテレパシーも中途半端、組み合わせ方も人それぞれ違う、会話がしづらくなります。これが0.5言語です。
私も似たようなところがあります。主語を言わないこととか。若い頃はとくに多かった。
実際、0.5言語は若い仲間に多いです。
克服できるまではジェスチャーを使わせています。
窓の女は、あれが「上から来た」のジェスチャーだと気がついた。
【8・カモシダサー】
窓の女は0.5言語の克服方法を考えていた。
こんにちは、お話しがあります。よろしいでしょうか。
いつでもどうぞ。
0.5言語の克服にご協力をお願いしたいのです。
ちょうどそのことを考えていましたよ。伝わったのかな。
この冠を頭につけてください。新しく作った、カモシダサーという機械です。
つけたよ。ほとんど透明で見えないけど、草の香りがしますね。
男は無言になった。
わたしにもテレパシーが聞こえるよ。これはすごいですね。
二人はしばらく無言でテレパシーによる日常会話を行った。
慣れてきた。しかし私も0.5言語になってしまわないですか?
あなたは大丈夫そうだからこそお願いしたかったのです。
宇宙船に行き、もっとテレパシーで会話をすることになった。
宇宙船の中は、部屋を増やす工事が進んでいた。
窓の女は会議室で林の女と再会した。まずは彼女と行動を共にする中で克服方法を探すことになった。
【9・窓の女の隠れた才能】
宇宙船の中の会議室で、窓の女と林の女の人会話がはじまった。
この前、お会いしましたね。
道端。
え?ああ、そうね、林の中の道端で、会いしましたね。
おっと、このカモシダサーという冠を被るのを忘れていた。
ハム。
ああ。
おすすめ。
そっか。
しばしの会話の後、窓の女は帰る時間になった。
家まで送ります。とうでしたか?
手作りの生ハムのサンドイッチが美味しいオススメのお店を0.5言語で教えてくれました。
彼女の言いたいことが理解できたのですか。才能ですね。ところでそのお店、あなたが働いていたお店ですね。
先に言わないでください、私に言わせてくださいよ。でもテレパシーで伝わったから、私が言ったのと同じか。
窓の女は林の女の仕事に同行した。0.5言語は思った以上に癖が抜けないものだとわかった。
【10・カモシダサーについて】
窓の女はカモシダサーについて考察していた。
1、ほとんど透明な機械で、冠の形をしている。
2、草の香りがする、あの林のように。
3、空飛ぶ男や林の女のテレパシーを聞くことができるようになる。
おーい、ごめんね、聞きたいことがあります。
カモシダサーのことなんだけど、もしかしてテレパシー以外の機能がついてますか?
テレパシー以外では、体験を記録する機能がついています。
それかあ。
どうかされましたか。
今日ね、外すの忘れて一日中過ごしてたんです。
確かにあれは、羽のように軽く、それでいて簡単に外れませんからね。
そしたらさっき、カモシダサーを使いはじめてから、これまでのことを、ふたたび体験したんです。まるで夢を見ていたように…。
それはおかしいですね、そんなことは起こらないはずです。
この星の人が使うと、そうなるのかもしれませんね。
問題ありそうですね。幸い、まだ、あなたしか使っていません。他の方にはこの仕事を断られてしまいましたから。
えっ。
断った人たちは騙されることを恐れたようです。あと、あなたのような才能がなかった。
そっか。
窓の女の想いが、空飛ぶ男に伝わった。人は他人を騙さない。人生という神話から逃げるために、自分を騙す道の先輩についてゆき、いずれ他人を同じように巻き込む。それが他人を騙す形になる。
カモシダサーについてのまとめ。ほぼ透明の機械で、冠の形をしている。草の香りがする。被るとテレパシーが聞こえるようになる。身につけた者の体験を記録する。この星の者が身につけると、記録された体験をふたたび体験することがある。
【11・突然の別れ】
窓の女と空飛ぶ男は恋仲になった。
お互い共にいたいと感じるようになり結婚した。
窓の女は林の女と機械のゴミ拾いを続けた。
だがある日、窓の女が行方不明になった。
カモシダサーが林に落ちていた。
消した。
消えたのではなくて、消したのですか?
自分で。
妻は自分を自分で消したということか。そんなことが可能なのか。それにしても、言いたいことがよくわからない。カモシダサーの記憶を確かめれば何かわかるかもしれない。
しかしカモシダサーは、この星の者が身につけて記録したことは、なぜか読み出せなかった。
男は妻を探すため、あらゆる力を使った。
仲間の説得で空飛ぶ男は冷静になり、仲間たちと協力して窓の女を探すことにした。月日が流れても男は決して彼女を忘れることはなかった。
【12・追放された兵士】
とある国で、不思議な板が見つかった。その板の上に乗ったものは、同じものが一つ増える。
どんなものでも同じ。
しかし大きな違いが一つだけ。増えたものは、すこし時間が経ったものだった。 例えば果物なら、その葉が大きくなり、果実も少し痛んでいた。
これを使って兵士を増やすことが試みられた。実験は成功した。
祖父からゆずりうけた思い出のある椅子は、二つと無い。その椅子を誰にも取られたくない。二人に増えた兵士の男は、もう一人の自分を消したくなった。
だが、増えた方の兵士の男は、それどころではなかった。彼は恐ろしい未来を見たからだ。板の機能は、じつは板の上のものを増やすのではなくて、過去・現在・未来に別れた自分のうち、未来の自分を呼び寄せるものだった。
未来の板の上では、ある女性が待ち構えていた。この国がこの板を乱用したことで、大地が歪み、震えて割れて、国が滅びたと教えてくれた。そして、この未来から現在に戻ったらこの板を破壊してくれと言った。
そう言い終えた彼女は、この板を誰の手にもゆずるまいと、この国の兵士たちと戦いはじめた。
未来から現在に戻った「未来の兵士」は、その夜、板を破壊した。反逆者とされ、国を追放された。だが、あの椅子への悲しい執着を克服できた。なぜなら、滅びた世界を見たとき、大切なのは、あの椅子とその思い出を与えてくれた愛そのものへの感謝だと、気がつかされたから。
そのことに気づく日が、もう一人の自分「現代の兵士」にも来るようにと、祈った。
未来で出会った女性は、空から落ちてきたアレに乗ってきたと言っていた。国を追放された未来の兵士は彼女に会うため宇宙船を目指した。
【13・帰還と再会】
未来の兵士が宇宙船を訪れ、未来で見た女性と再開した。コミュニケーションのため、ひとまず彼にカモシダサーが貸し出された。
すると彼には、窓の女の記憶の読み取りができた。カモシダサーをつけた瞬間、彼はそのことを証明するため、空を飛ぶ許可を求めた。そして上手に飛んだ。訓練しないと困難なはずだが、窓の女の訓練を思い出したらしい。
あなたが彼女の記憶を読み出せたのは、彼女と特別な共通点があったからだと、わかりました。
それは二人とも、大切なことを見失っていたが、後になって取り戻したことです。取り戻すという気づきの力が必要だったみたいです。
彼女を探す手がかりがつかめました。ありがとうございます。
記憶によると、窓の女は、好奇心から光の風の吹き出し口に手を突っ込んで、吸い込まれた。
そして、部品や材料を仮置きする、時間が止まった空間に、囚われていた。
空飛ぶ男は、窓の女をその空間から引き戻すと、二人で家に帰っていった。
【14・未来の兵士と林の女】
未来の兵士は、林の女と再会し、0.5言語の克服を協力するうち、恋仲になった。
彼は、もう一人の自分を思い出した。やがて再会し、カモシダサーをつけさせた。体験を共有すれば、きっといろんな問題を乗り越えられると信じて。
すると未来の兵士は消えてしまった。たぶん、二人は一人に戻ったのだろう。すべての記憶を受け継いだ兵士は、国を捨てて、林の女と結婚した。
【15・仕事が完了】
ただいま。おかえりなさい。
今日で全ての機械のゴミ集めが完了しました。あの板を回収した時点で、完了したのも同じでしたが。
あの板が一番の探し物だったんですね。やりきりましたね。明日から少しゆっくり休んで、旅行でも行きましょうよ。
プラネタリウムは、訪れる人たちに、やさしく音声を流した。「すべて感謝し、手放して、しかし忘れず。」
つづく。